植物観察日記~コブシ編~
- nakakienhrk
- 2022年3月6日
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コブシとは
・北海道から九州まで日本全国の山林や日の当たる原野に自生するモクレン科の落葉広葉樹。早春に白い花を咲かせ、春の訪れを告げる代表的な里山の花木だが、葉が大きくて木陰を作りやすいため、街路樹や公園樹としての利用も多い。日本特産のようなイメージを持つが、韓国の済州島にも自生する。
・コブシの開花は3月下旬~4月上旬でソメイヨシノより早い。蕾は銀色の毛を持つ3枚の「萼片」で覆われており、葉が展開する前、小枝の先に直径6~10センチほどの白い花が1輪ずつ咲く。
・花弁は白で外側は赤紫色を帯びるのが特徴。9枚ある花弁のうち3枚は小さくて目立たない。雌雄同株で花弁の内側には細長い棒状の花床があり、その上部には緑色の雌しべが、下部にはクリーム色の雄しべが、それぞれ螺旋状に並ぶ。
・花にはレモンのような香りがあり、蕾と共に花酒や花茶に使われる。また、乾燥させた蕾は漢方で「辛夷(しんい)」といい、副鼻腔炎や鼻炎の緩和、鎮痛剤として使われる。有効成分はシトラール、シネオール、オイゲノールなど。
・コブシには「田打ち桜」「田植え桜」「種まき桜」「芋植え花」などの別名がある。これらはコブシの開花を農作業の準備の目安に使ったことに由来し、これに類する様々な地方名がある。日差しが多いと蕾の先は北向きとなり、コブシがたくさん咲いた年は豊作になるという言い伝えがある。
・葉は長さ6~13センチ、幅5センチ前後。歪んだ卵形で先端が凸状に飛び出す。枝から互い違いに生じ、縁にギザギザはなく裏面は淡い緑色を帯びる。若葉には毛があるが成葉では無毛。枝葉にもレモンのような香りがあり、折ったり燃やしたりすると強く匂う。
・早秋(9~10月頃)にできる果実は長さ10センチ前後に及ぶ集合果。コブシという名前は、ゴツゴツした果実の形が握り拳に似ることによるが、果実の形は個体差が大きく、拳に似たものを見付けるのは案外難しい。むしろ蕾の方が拳に似ており、蕾をコブシの名の由来とする説もある。
・コブシの蕾や果実は噛むと辛みがある。別名の「ヤマアララギ(山蘭)」や古名の「コブシハジカミ(辛夷椒)」はこれにちなむ。食用にはならず、染料として使われる。
・果実は秋(10月)に熟すと自然に裂け、中から赤い「仮種皮」に包まれた種子が白い糸を引きながら垂れ落ち、ややグロテスクな様相を呈する。種子は黒く、表面には線状の模様がある。
・葉は秋に黄葉するものの、その期間は短い。コブシは花期以外に注目されにくいが、落葉後の枝ぶりには力強さがあり、これが庭木として多用される理由の一つでもある。
・幹の直径は最大で70センチほど。樹皮は灰白色で樹齢を重ねると浅く裂ける。材の見た目はホオノキに似るが硬めで加工しにくく、質もホオノキに劣る。稀に茶室の床柱や器具材、楽器、家具などに使われ、コブシで作った炭は金銀の研磨に使われる。
コブシの育て方のポイント
・コブシは耐寒性、耐暑性があり、北海道から九州まで広い範囲に植栽できる。強風、潮風、痩せ地にも強い。
・時折テッポウムシの被害に遭うこともあるが、基本的には病害虫に強い。ただし、シデコブシほどではないが蕾をヒヨドリに食べられることがある。
・成長はやや早いものの、実生から育てると開花までに10年近くかかる。また、大きくなると開花が隔年になりやすい。
・枝分かれが単純であり、剪定の手間はあまりかからないが、木も葉も大ぶりであり、スペースの狭い一般家庭にはシデコブシが望ましい。


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